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東京地方裁判所 昭和60年(ワ)10774号 判決 1987年1月30日

原告

池田二朗

原告

峰岸昭一

原告

伊手実衛

原告

緒方政弘

原告

飯村辰己

原告ら訴訟代理人弁護士

藍谷邦雄

吉田健

被告

小里機材株式会社

右代表者代表取締役

藤井浅一

右訴訟代理人弁護士

秋山昭八

鈴木利治

近藤登

主文

一  被告は、原告池田二朗に対し、一〇万二八六〇円及びうち六万二七五〇円に対する昭和六〇年四月一六日から、うち二四三〇円に対する同年五月一日から各完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告峰岸昭一に対し、六万一九三五円及びうち三万八六七四円に対する昭和六〇年四月一六日から、うち一九七二円に対する同年五月一日から各完済まで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告は、原告伊手実衛に対し、三万三四一〇円及びうち二万二九五一円に対する昭和六〇年四月一六日から、うち八六八円に対する同年五月一日から各完済まで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告は、原告緒方政弘に対し、二一五三円及びうち一二八五円に対する昭和六〇年五月一日から各完済まで年五分の割合による金員を支払え。

五  被告は、原告飯村辰己に対し、九一万七四二〇円及びうち五七万三二五八円に対する昭和六〇年四月一六日から、うち三万三二三三円に対する同年五月一日から各完済まで年五分の割合による金員を支払え。

六  原告らのその余の請求を棄却する。

七  訴訟費用は、これを五分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

八  この判決第一項ないし第五項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、各原告に対し、別紙債権目録(略)の「合計金額」欄記載の金員及び同目録の「未払額」欄記載の金員に対する昭和六〇年四月一六日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  被告は、工業用皮革、ゴム絶縁材料石綿のパッキング加工販売等を目的とする会社である。

2  原告池田二朗(以下「原告池田」という。)は昭和五六年六月に、原告峰岸昭一(以下「原告峰岸」という。)は昭和五四年一一月に、原告伊手実衛(以下「原告伊手」という。)は昭和五六年五月に、原告緒方政弘(以下「原告緒方」という。)は昭和六〇年三月に、原告飯村辰己(以下「原告飯村」という。)は昭和五八年六月に、それぞれ被告に雇用された。

3  被告における労働時間は、午前八時三〇分から午後五時までのうち休憩時間一時間を除く七時間三〇分であり、年間労働日数は二八八日(月平均二四日)である。被告においては、労働基準法(以下「労基法」という。)所定の一日八時間以内であっても、一日七時間三〇分を超える労働時間につき通常の労働時間又は労働日の賃金の二割五分の割増賃金を支払うとの確立した慣行が存在していた。

4(一)  被告の従業員の賃金は、基本給及び住宅(既婚か未婚かを問わず、住民票上世帯主である従業員に対して扶養家族の存否、家族数等に関係なく一律に月額五〇〇〇円が支払われる。)、皆勤(無欠勤、無遅刻、無早遅、無私用外出の従業員に対して月額三〇〇〇円が支払われる。)、乗車(普通四輪自動車運転免許を保有している従業員に対して月額三〇〇〇円が支払われる。)、役付(従業員の職位に応じて支払われるものであるが、本件原告の中では、班長の職位にあった原告池田に対してのみ月額二〇〇〇円が支払われていた。)、通勤、家族、奨励の各手当で構成されており、被告の賃金支払方法は、前月二六日から当月二五日までの一か月分を当月末日に支払うというものである。

(二)  時間外労働に対する割増賃金の計算の基礎とすべき賃金は、(一)記載の賃金項目のうち、基本給及び住宅、皆勤、乗車、役付の各手当である。

5(一)  被告は、昭和五八年五月から昭和六〇年四月までの間、原告池田、同峰岸、同伊手及び同緒方につき基本給のみを計算の基礎として割増賃金額を算出し、その額を支払った。右の原告らの住宅、皆勤、乗車及び役付の各手当の額は、それぞれ別表(略)1ないし4の各1の「手当」欄記載のとおりであり、二割五分の割増率を乗じた未払割増賃金の一時間当たりの額、時間外労働をした時間数及び未払割増賃金額は、同表の各該当欄記載のとおりである。

(二)  被告は、原告飯村に対し、昭和五八年一〇月から昭和六〇年四月までの間、午後七時を超えて勤務した場合にのみ別表5の1の「既払割増賃金」欄記載のとおり割増賃金を支払った。同原告の基本給、住宅、皆勤、乗車の各手当の額、二割五分の割増率を乗じた割増賃金の一時間当たりの額、時間外労働をした時間数及び支払われるべき割増賃金額は、同表の各該当欄記載のとおりである。

6  よって、各原告は、被告に対し、別表1ないし5の各1記載の未払割増賃金及びこれと同一額の附加金並びに未払割増賃金につき弁済期後の日である昭和六〇年四月一六日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する認否

1  1ないし3の事実はいずれも認める。

2(一)  4の(一)の事実は認める。同(二)のうち、基本給を時間外労働に対する割増賃金の計算の基礎とすべきことは認め、その余は否認する。

(二)(1)  住宅手当は、当該従業員が住民票上の世帯主であるという個人的事情に基づき支払われていたものであって、労基法三七条二項所定の家族手当の性質を有するものであるから、割増賃金計算の基礎となる賃金に含まれるべきではない。

(2) 皆勤手当は、労基法施行規則二一条三号所定の臨時に支払われた賃金に当たるから、割増賃金の計算の基礎となる賃金に含まれるべきではない。また、皆勤手当は、賃金支払の基礎月間の終了により初めて支払が決定されるものであって、割増賃金の計算の基礎とするのになじまない。更に、皆勤手当は、報償の性質を有するものであるから、これを割増賃金の計算の基礎とするのは不適当である。

(3) 乗車手当は、普通四輪自動車運転免許の保有者に対して支払われていたものであるが、被告代表者の子が交通事故で死亡したことを契機に、運転免許を保有する従業員に交通事故の悲惨さを認識させ、保険をかけさせる等の目的で創設されたものであって、労働の対価としての意味は全くなく、個人的な理由で支給されていたものであるから、労基法三七条二項所定の家族手当に準じて、割増賃金計算の基礎から除外すべきである。

(4) 仮に、住宅、皆勤及び乗車の各手当が労基法三七条二項又は同法施行規則二一条に列挙された賃金に該当しないとしても、被告の賃金体系において右の各手当の占める割合は一割未満であって、労基法三七条一項の規定する割増の意義を損うことはないから、右の列挙を例示的なものと解し、個人的事情に基づいて支払われた右の各手当を割増賃金の算定の基礎に算入しないことにより従業員間の賃金の公平を図ることが適切である。

3  5の(一)のうち、別表1ないし4の各1の「手当」及び「時間数」の各欄に対する認否は、別表1ないし4の各2の各該当欄記載のとおりであり、その余の事実は認め、未払割増賃金が存することは争う。同(二)のうち、別表5の1の「基本給」、「手当」、「時間数」及び「既払割増賃金」の各欄に対する認否は、別表5の2の各該当欄記載のとおりであり、その余の事実は認め、未払割増賃金が存することは争う。

三  抗弁

1  原告飯村は、昭和五八年六月に雇用されるに際し、被告との間で、月一五時間の時間外労働に対する割増賃金を本来の基本給に加算して同原告の基本給とする旨合意し、同年一〇月から昭和六〇年四月までの間も、この合意に基づき午後五時から七時までの時間外労働は右の一五時間の中で消化するとの扱いがされていたものである。よって、原告飯村は、被告に対し、月一五時間を超える時間外労働に対する割増賃金についてのみ請求し得るものである。

2  原告池田、同峰岸及び同伊手の昭和五八年五月分ないし八月分の賃金請求権は、労基法一一五条により、本件訴えの提起前に弁済期から二年間経過したので、時効により消滅した。したがって、右の期間の賃金請求権に対応する附加金の請求も理由がない。

3  原告池田、同峰岸及び同伊手の昭和五八年五月分ないし八月分の賃金請求権に対応する附加金請求権は、労基法一一四条但書により、本件訴えの提起前に二年間の除斥期間の経過により消滅した。

四  抗弁に対する認否

1  1の事実は否認する。

2  2のうち、原告池田、同峰岸及び同伊手の昭和五八年五月分ないし八月分の賃金につき本件訴えの提起前に弁済期から二年間経過したことは認め、その余は争う。

五  再抗弁

1  原告らは、昭和六〇年四月一四日に労働組合を結成し、同時に訴外東京東部労働組合(以下「訴外組合」という。)に加入した。訴外組合の原一平副委員長と山岡元治書記長は、被告の高井裕総務課長に対し、翌一五日、本件割増賃金の請求をした。

2  訴外組合は、被告に対し、昭和六〇年四月一九日開催の団体交渉において、本件割増賃金の請求をした。

3  原告らは、被告に対し、昭和六〇年九月一〇日に本件訴えを提起した。

4  よって、被告の主張する時効は中断されている。

六  再抗弁に対する認否

1  1のうち、原告らが昭和六〇年四月一四日に労働組合を結成し、同時に訴外組合に加入したことは認め、その余の事実は否認する。

2  2の事実は否認する。

第三証拠(略)

理由

一  請求の原因1ないし4の(一)の事実及び同4の(二)のうち、基本給を時間外労働に対する割増賃金の計算の基礎とすべきことは、いずれも当事者間に争いがない。

二  そこで、住宅、皆勤、乗車及び役付の各手当を時間外労働に対する割増賃金の計算の基礎とすべきか否かについて検討する。

1  労基法三七条一項は、使用者が労働者に時間外、休日又は深夜労働をさせた場合には、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上の率で計算した割増賃金を支払うべき旨を定め、他方、同条二項及び同法施行規則二一条は、(一)家族手当、(二)通勤手当、(三)別居手当、(四)子女教育手当、(五)臨時に支払われた賃金、(六)一箇月を超える期間ごとに支払われる賃金を割増賃金の計算の基礎から除外している。

右の割増賃金の目的は、労基法が規定する労働時間及び週休制の原則を定めた趣旨を維持し、同時に、過重な労働に対する労働者への補償を行わせようとするところにあるのであるから、右の六項目の除外賃金は制限的に列挙されているものと解するのが相当であり(もとより、実際に支払われる賃金がこれらに当たるか否かは、名目のみにとらわれず、その実質に着目して判断すべきである。)、請求の原因に対する認否2の(二)の(4)記載の被告の主張は採用の限りではない。

2  右の立場から、各手当につき除外賃金に当たるか否かを順次判断する。

(一)  住宅手当

本件において問題となっている昭和五八年五月分ないし昭和六〇年四月分の賃金における住宅手当が、既婚か未婚かを問わず、住民票上世帯主である従業員に対して扶養家族の存否、家族数等に関係なく一律に月額五〇〇〇円支払われていたものであること及び被告においては住宅手当の外に「家族手当」という名目の賃金も支払われていたことはいずれも当事者間に争いがなく、これらの事実によれば、本件住宅手当は、労基法三七条二項所定の家族手当の性質を有するものと解することはできず(証人高井裕は、本件住宅手当につき、昭和五三年ころ既婚の世帯主である従業員に対してのみ支払われていたものが後に支給対象が拡大されたものであり、生活補助費的意味合の手当である旨証言するが、この証言を前提としても家族手当の性質を有するものと解することができないことに差異はない。)、また他のいずれの除外賃金にも該当しない。

(二)  皆勤手当

本件皆勤手当が、無欠勤、無遅刻、無早退、無私用外出の従業員に対して月額三〇〇〇円支払われていたことは当事者間に争いがなく、この事実によれば、本件皆勤手当が労基法施行規則二一条三号所定の臨時に支払われた賃金に当たらないことは明らかであり、被告主張の事情を勘案しても、他のいずれの除外賃金にも該当しない。

(三)  乗車手当

本件乗車手当が、普通四輪自動車運転免許を保有している従業員に対して月額三〇〇〇円支払われていたことは当事者間に争いがなく、この事実によれば、本件乗車手当が労基法三七条二項所定の家族手当に当たらないことは明らかであり、被告主張の事情を勘案しても、他のいずれの除外賃金にも該当しない。

(四)  役付手当

原告池田に対して昭和五九年一月以降班長という職位に応ずるものとして本件役付手当が月額二〇〇〇円支払われていたことは当事者間に争いがなく、この事実によれば、本件役付手当がいずれの除外賃金にも該当しないことが明らかである。

3  よって、住宅、皆勤、乗車及び役付の各手当は、時間外労働に対する割増賃金の計算の基礎となる賃金に含まれるものというべきである。

三  抗弁1(原告飯村の時間外労働に対する割増賃金)について

証人高井裕は、同証人が被告の人事担当者として昭和五八年六月の原告飯村の採用に際し、同原告との間の合意に基づき、同原告の労働時間は休憩一時間を含めて午前八時三〇分から午後五時までであるが、月一五時間の時間外労働を見込んだうえ、その分の割増賃金を本来の基本給に加えて同原告の基本給を決定した(すなわち、本来の基本給一五万円、割増賃金一万五六〇〇円の合算額である一六万五六〇〇円を同原告の基本給とした。)と証言するが、この証言は、同証人の、月一五時間という数字が同原告が担当することとなる営業部門の責任者との相談のうえで出されたものではない旨、同原告入社後同原告の時間外労働が一五時間を超えているか否かの調査を被告として一切していない旨右の合意をした際に、月一五時間を超える時間外労働に対しては割増賃金が支払われるとの説明をしなかった旨及びその後、原告飯村の本人尋問の結果及び成立に争いのない(証拠略)の記載に照らして信用することができず、他に抗弁1の事実を認めるに足りる証拠はない。

また、仮に、月一五時間の時間外労働に対する割増賃金を基本給に含める旨の合意がされたとしても、その基本給のうち割増賃金に当たる部分が明確に区分されて合意がされ、かつ労基法所定の計算方法による額がその額を上回るときはその差額を当該賃金の支払期に支払うことが合意されている場合にのみ、その予定割増賃金分を当該月の割増賃金の一部又は全部とすることができるものと解すべきところ、原告飯村の基本給が上昇する都度(昭和五八年その時から昭和六〇年四月までの間に三回にわたって基本給が上昇したことは当事者間に争いがない。)予定割増賃金分が明確に区分されて合意がされた旨の主張立証も、労基法所定の計算方法による額がその額を上回るときはその差額を当該賃金の支払期に支払うことが合意されていた旨の主張立証もない本件においては、被告の主張はいずれにしても採用の限りではない。

よって、原告飯村の時間外労働に対する割増賃金は、同原告の基本給の全額及び住宅、皆勤及び乗車の各手当の額を計算の基礎として時間外労働の全時間数に対して支払わなければならない。

四  抗弁2及び再抗弁(消滅時効の採用及び時効の中断)について、

1  原告池田、同峰岸及び同伊手の昭和五八年五月分ないし八月分の賃金につき本件訴えの提起前に二年間が経過したことは当事者間に争いがない。

2  そこで、時効の中断の成否について検討する。

原告らが昭和六〇年四月一四日に労働組合を結成し、同時に訴外組合に加入したことは当事者間に争いがないところ、(証拠略)、証人高井裕の証言及び原告池田本人尋問の結果によれば、原告らが加入した訴外組合の原副委員長と山岡書記長は、訴外組合を代理して、原告池田、同峰岸、同緒方及び同飯村同席の場で、同月一五日、被告の賃金支払事務の担当者である高井裕総務課長に対し、賃金の引上げ等を内容とする団体交渉申込書(<証拠略>)を手渡すとともに、口頭で、被告の従業員である組合員のために時間外労働の割増賃金の未払分の存在を指摘したうえ、その支払方を請求した事実を認めることができ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

右の請求に際し、訴外組合の原副委員長らは組合員ごとの金額を明示したわけではないが、民法一五三条所定の催告の要件を満たしているものと解することができ、右の催告の後六か月内に本件訴えが提起されたことは当裁判所に顕著な事実であるから、催告の時点である昭和六〇年四月一五日に原告らのために本件未払割増賃金請求権の消滅時効は中断したものというべきである。

3  よって、被告は、原告池田、同峰岸及び同伊手の昭和五八年五月ないし八月分の未払割増賃金につき、その支払義務を免れることはできない。

五  原告らの未払割増賃金額の算出について

原告らの基本給額、手当額及び時間外労働の時間数は、別表1ないし5の各2記載のものが当事者間に争いがないものであり、原告ら主張の別表1ないし5の各1記載のもののうちこれを超える部分を認めるに足りる証拠がないから、原告池田、同峰岸、同伊手及び同緒方については、別表1ないし4の各2に記載の手当額を基礎として未払割増賃金の単価を算出し(各手当の合計額÷24÷7.5×1.25、小数点第三位を四捨五入)、これに時間外労働の時間数を乗じて各月の未払割増賃金額を算出し(小数点第一位を四捨五入)、原告飯村については、別表5の2記載の基本給額及び手当額を基礎として割増賃金の単価を算出し(基本給及び各手当の合計額÷24÷7.5×1.25、小数点第三位を四捨五入)、これに時間外労働の時間数を乗じて各月の割増賃金額を算出し(小数点第一位を四捨五入)、各月の割増賃金の合計額から既払割増賃金額を控除して未払割増賃金額を算出することとする。

なお、労基法所定の一日八時間以内の時間外労働分についても二割五分の率の割増賃金が認められるのは、前判示のとおり当事者間に争いのない被告の確立した慣行に基づくものである。

原告らは、昭和六〇年四月分の未払割増賃金についても同月一六日から完済までの遅延損害金の支払を求めているが、前判示のとおり、同月分の賃金の支払期が同月三〇日であることは当事者間に争いがないから、同月分の未払割増賃金に対する遅延損害金については、同年五月一日から完済までの分を認容することとする。

六  附加金の支払について

以上判示のとおり、被告は、労基法三七条に違反して原告らに支払うべき割増賃金の一部を支払わなかったのであり、また、原告らは、同法一一四条に基づき、昭和五八年五月分から昭和六〇年四月分までの未払割増賃金と同額の附加金の支払を請求しているところ、原告池田、同峰岸及び同伊手の昭和五八年五月分ないし八月分の未払割増賃金に対応する部分は、同条但書により、昭和六〇年九月一〇日に提起された本件訴えにおいては、請求することが許されないものというべきである。

さて、前判示の各事実から推認し得る本件未払割増賃金の発生理由、未払期間、未払額及び本件全証拠により推認し得る原告ら又は訴外組合と被告との間の交渉経緯等一切の事情を斟酌すると、当裁判所は、被告に対し、労基法三七条に違反した未払割増賃金と同一額の附加金の支払を命ずるのが相当であると判断するが、当事者間に争いのない原告らの時間外労働の時間数は、同法所定の一日八時間の範囲内のものをも含むものであり、本件全証拠によっても、同法三七条に違反した未払割増賃金の額を正確に算出することができないから、原告らにつき昭和五八年九月から昭和六〇年四月までの各月の時間外労働の時間数から一二時間(0.5時間/日×24日/月=12時間/月)を控除した時間数に対応する未払割増賃金と同一額(小数点第一位を四捨五入)の附加金の支払を命ずることとする。原告らにつき認容すべき附加金の各月ごとの額は、別表1ないし5の各2の「附加金」の欄記載のとおりである(ただし、原告飯村については、別表5の2の「附加金合計」欄記載の金額から「既払割増賃金合計」欄記載の金額を控除したものが認容すべき附加金の金額となる。)。

七  結論

以上の次第で、原告らの請求は、主文掲記の金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 田中豊)

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